保育所等における仕事分類と労働環境整備

保育所の朝2

<保育所等での働き方改革 Ⅱ>

 働き手の減少に伴い、高齢者や女性の社会進出が叫ばれて久しいですが、ご存知のように、保育の現場は以前からも女性中心の職場でした。近年は多くの施設で男性職員が必要とされる一方で、”保母さん” と言う名称が当たり前に使われていた頃から今に到るまで、なおも女性の活躍無くしては成り立たないことに変わりありません。
 そして、待機児童問題などで新規開設が相次いでいる昨今は、全国的に深刻な保育士不足に陥っています。それに対し筆者の考える保育士不足の原因は、大きく分けて「賃金」「業務専門性」「労働環境」の3つです。
 まず「賃金」に関しては、子どもの安全に対する重責がサラリーに比例していないことに加え、一般的な企業に比べても低いことが問題となります。それについては、処遇改善加算費、家賃補助、支度金制度等、国や自治体を巻き込んだ改善が現在進行形でなされています。
 次の「業務専門性」とは、子どもの人数に対して保育資格者の配置基準が法律で定められていることです。こちらも、短時間勤務職員の配置に始まり、年間の試験回数を増やしたり地域限定免許を導入するなど、保育の質を落とさない程度に条件緩和が行われています。
 最後に「労働環境」の問題は、他の2項目よりも手のつけやすい部分だと思います。 しかしながらその反面、事業主サイドでは “運営上の資金繰り” や “昔ながらの慣習” を理由に棚上げせず、また職員サイドでは “福祉の精神” で言葉を押しつぶすように黙認し、好ましくない状態が当然のごとく続いている場合があります。”子どもは好きだけど、好ましくない状態の職場では働きたくない” と、保育の現場が敬遠される事態だけは避けなければなりません。少なくとも慢性的な時間外労働休暇の取得など原則的な労働条件の見直しに加え、女性の働き方に合わせた環境整備が必要だと考えています。

保育士の仕事の約30%は直接子どもと接しない業務

主な業務内容業務時間発生率
室内遊び62.6 100%
☆会議・記録・報告52.5 100%
表現活動への支援35.7 98.2%
愛着・スキンシップ31.877.7%
食事摂取の援助 29.1100%
挨拶・日常会話26.498.6%
就寝の援助24.977%
着替え17.099.6%
☆連絡帳13.893.3%
おやつ12.4100%
児童の行動への指導・関係調整10.8 85.1%
移動時間の誘導・見守り・介助 10.499.3%
掃除 10.0100%
☆保育の計画・準備・調整8.8100%
ミルク・離乳食等 8.240.8%
☆保育の記録6.860.6%
職員の行動8.199.6%
登降園時のコミュニケーション8.073.4%
降園時の送り出し 7.779.1%
排泄の対応6.687.2%
登園時の受け入れ 6.189%
訴えの把握・心理的支援 6.175.9%
園庭遊び 5.986.2%
「新たな次世代育成支援のための包括的・一元的な制度」の設計に向けたタイムスタディ調査
平成22年みずほ情報総研株式会社

 上記の表は、職員一人当たりの業務時間が5分を超える仕事を抽出したものです。また配置基準の関係上、一ヶ園の中でも低年齢児に携わる保育士割合が多いことを反映したデータだと推測します。その内容を踏まえ、黒字は園児に直接対応している時間赤字は園児に直接対応していない時間に分類しました(全国社会保険労務士会連合会保育業労務管理部会による)。

  • 黒字…281.8分(約4時間42分)
  • 赤字127.9分約2時間08分

 さらに、赤字項目をリモートワークが可能な☆印に限定した場合は、75.1分約1時間25分)になります。週5日の勤務として一週間に換算すると7時間05分になり、実に丸一日相当の時間を費やしている計算になります。そのことからも、一週間に一度程度は在宅勤務を命じることが可能だと言えます。コロナ禍において、半ば強制的に在宅勤務や在宅研修を試みた施設も、計画的に運用することで ある程度のリモートワークができると思われたのではないでしょうか。引き続き「テレワーク+半日休暇」「外部研修+テレワーク」などフレキシブルに勤務形態をとらえることで、限りある時間を賢く有効に活用できると考えています。 

施設職員の資格配置基準
認可保育所保育士0歳児   3:1
1・2歳児 6:1
3歳児   20:1
4・5歳児 30:1
家庭的保育事業家庭的保育者
家庭的保育補助者
0〜2歳児 3:1
家庭的保育補助者を置く場合 5:2
小規模保育事業
A型(ミニ保育所類型)
保育士(認可保育所の配置基準+1名)
小規模保育事業
B型(中間型)
2分の1以上が保育士(認可保育所の配置基準+1名)
小規模保育事業
C型(家庭的保育類型)
(家庭的保育事業と同様)0〜2歳児 3:1
居宅訪問型保育事業必要な研修を修了し、保育士、
保育士と同等以上の知識及び経験を有すると市町村長が認める者
0〜2歳児 1:1
事業所内保育事業
定員20名以上
保育士(認可保育所と同様)
事業所内保育事業
定員19名以下
(小規模保育事業A型B型の基準と同様)(小規模保育事業A型B型の基準と同様)
保育施設運営での人員配置

 ただし、保育施設でリモートワークを導入する場合、法律通りの配置基準だと難しいことは確かです。一般的に、委託費の70%から80%が人件費で占められていると言われています。余剰金を得る為にその部分を抑えようとしがちですが、裏を返せば、施設運営では人材が最も重要なファクターとも言えます。
 もしも “資格者が一人抜けることで配置基準が満たせない” と思われた場合には、そこで勤務している職員に大きな負担が掛かっている危険性があります。優先事項として職員の労働環境を改善したいと思わない以上、たとえ法律の要件が緩和されたとしてもその問題は常に伴うと思います。つまり、仮に “2歳児が8対1” に設定されたとしても、その通りに配置するだけで “資格者が一人抜けることで配置基準が満たせない” と言う問題はいつまで経っても解決しません。あまり比べることはしたくありませんが、筆者が20年以上お付き合いさせていただいている保育園では、30名弱の幼児クラス全てで資格者2名が担任を受け持っていることも事実です。あくまでも配置基準は最低基準でしかなく、心の余裕を持って子どもと接する時間を過ごし、個々の能力を充分に発揮できる職場環境を築けるように努力したいものです。

 それ以外にも保育園やこども園では、有給休暇が取りづらいという問題を抱えています。2019年4月の改正により「年次有給休暇が10日以上付与されている職員に対して、毎年5日の有給休暇を取得させる」ことが義務付けされ、普段から有休消化を促す取り組みが必要とされましたが、依然として職員の請求通りに休めるとまでは言えません。労働基準法上、有給休暇は一定の条件で勤務した職員に与えられた権利とされています。「オンラインで戦闘中のため」「録画したドラマを観たいので」時季変更権はあるものの、そんな理由でさえ事業主は原則拒否することもできませんし、当該職員を不利益に扱うこともできません。
 しかしながら、実際はどうでしょうか。勇者1通常一ヶ月前に次月の勤務シフトを決めることが多いのですが、特に一人担任だと少しくらいの体調不良では休めません。ましてや「ロールプレイングゲームで洞窟を探検してきます」と言ったら「そのまま帰ってこなくていい」と返されるかもしれません。
 また、3月に退職を控える職員が「有休を消化したい」と申し出た場合も同様に、原則与えなければなりません。「人手が足りないから」という理由だけでは、時季変更権の行使は難しいと思われます。そもそも代替要員の確保や勤務調整ができないのは施設側の要因でしかなく、一方で職員が有給休暇を取ることは法律上の権利であり、退職日までに消化できなくなればその権利が奪われてしまうことにもなります。その場合、一ヶ月限定の派遣職員を手配することもありますが、年度末にかける労力や子どもに対する現場リスクが伴います。実際の対処法としては、4月から入職予定の新人に前倒しで短時間勤務職員として働いてもらう方法や、当該職員に3月末の退職を4月末にずらしてもらう方法などが考えられます。しかし、前者では新人に過酷な労働環境を印象付けることにもなりかねませんし、後者では新年度の施設予算が削られてしまいます。
 この問題に対しても、日中に勤務ができるフリーのパート職員補助担任等を増員することで、おおよその回避が可能だと考えています。労働環境の改善に関して何をすべきか分からない場合は、まず職員の補充から始めてみてはいかがでしょうか。”洞窟に潜った” 職員もレベルを上げて戻って来れますし、なにより休暇が取得しやすい環境を整えることは職員の定着にも貢献します

直接子どもと接しない業務とは

 では、”直接子どもと接しない業務” をもう少し掘り下げてみましょう。

  • 指導計画(年間カリキュラム、月、週、日の計画と反省)
  • 園児の発達記録
  • 日誌
  • 保育士個人記録
  • 保護者相談、及び対応
  • 連絡帳
  • 壁面装飾作り
  • クラスだより作成
  • 栄養士との食に関する打ち合わせ
  • 行事計画とその準備
  • 小学校、地域、自治体等への対応
  • 業者打ち合わせ
  • 保育室、共同スペース等の清掃、玩具等の消毒
  • 勤務シフト作り

 その他、研修資料の作成や研修参加、読み聞かせの準備、ピアノの練習、手遊びの用意など、個々のブラッシュアップに費やす時間も必要になります。ここに挙げただけでも、”直接子どもと接しない業務” は多岐に渡ることが分かります。

 しかも、過重労働を感じる原因の多くは これらの業務です。「所定労働時間=子どもと接している時間」とシフト組みされている場合は、”直接子どもと接しない業務” をする時間が設けられていません。その場合、子どもの数に対して資格者の数が決められている以上、子どもがいる間に事務的な作業をすることはできません。せいぜい、子ども達がお昼寝をしている部屋の片隅で、手暗がりの文字を追うのがやっとでしょう。
 前途したように、週一程度の在宅勤務を推奨しますが、すぐには難しいと考えるならば、少なくとも所定労働時間の10%〜30%は “直接子どもと接しない業務” を前提にシフトを組むべきだと思います。それでも現状として配置基準を満たせない場合には、持ち帰り仕事を残業として認める最低限の配慮をするべきだと考えます。それができないと暗黙的なサービス残業が横行し、疲労蓄積精神疾患といった負のサイクルが生まれ、職員はもちろんのこと子ども達にも悪影響が及びます
 高等学校卒業時までに進路を決めた職員がほとんどであることから、根本的に子ども好きな素質があることは間違いありません。子ども嫌いで離職する職員が皆無だとすれば、主な自己都合退職の原因は労働環境を整えることで一定程度解消できると考えられないでしょうか。

「保育指導」

子どもの保育の専門性を有する保育士が、保育に関する専門的知識・技術を背景としながら、保護者が支援を求めている子育ての問題や課題に対して、保護者の気持ちを受け止めつつ、安定した親子関係や養育力の向上をめざして行う子どもの養育(保育)に関する相談、助言、行動見本の提示その他の援助業務の総体をいう。

 もう一つ “直接子どもと接しない業務” の特徴として、その大半が新人の苦手とする分野だという点があります。その理由は簡単で、壁面装飾などの一部を除いて、保育士の養成校で学ぶ機会がほとんどないからです。ただでさえ子どもの命を預かる気の抜けない現場なのに、入職してから初めて課せられる業務の多さに面を食らってしまいます。

 保護者対応の場面では、さらに複雑でセンシティブな関わり合いが求められます。「ひとり親で精神的に不安定な家庭」「仕事メインで子育てを丸投げする家庭」「一人っ子で細かいクレームを日々してくる家庭」「コミュニケーション自体が難しく虐待が疑われる家庭」など、資格者として保育指導をする立場であっても、新人には酷な内容も少なくありません。時には「子どもも産んだことがないのに、何が分かるんですか?」そんな保護者の言葉に打ちのめされてしまうこともあり、皮肉なことに、真面目な人ほど自分を責め立ててしまうようです。3年目の壁を突破できなかった保育士の多くは、これらの現実に力尽きてしまったのではないでしょうか。

“若手保育士” を育てよう

 保育士不足対策の一つとして、職員の離職を防ぐという重要課題があります。
 近年導入された処遇改善加算Ⅱでは、副主任専門リーダーが概ね7年、職務分野別リーダーが概ね3年と定められました。どちらも、離職率が高い年に設定したと言われています。つまり、7年目は結婚退職や待遇の不満など、3年目は気分転換や職務上の挫折など、そのタイミングで “賃金を上乗せするからもう少し頑張りましょう” という感じです。

 一般企業の新入社員であれば、夏の終わりまで色々な部署を経験しながら会社全体の仕事を把握し、秋の訪れと共に担当部署へ配属されるパターンが多いと思われますが、保育施設の場合はそうはいかず、入職した1日目から即戦力です。資格者とはいえ社会人としては一年生であるにも関わらず、あまりにも “実戦で学べ” 的な部分が多いことは確かです。その為、3月中に一定のオリエンテーションや短い研修が行われることがほとんどで、大きな不安を抱きながら慌ただしく4月を迎える新人も少なくありません。中にはブラザーシスター制度を導入して、新人一人につき先輩保育士が一年間ほど伴走する施設もあり、各クラスに2名以上の担任がいる保育園では、実質的にその制度が敷かれていると言えます。書類作成や保護者対応はもちろんのこと、生活面の悩みなど様々な場面で先輩職員の手助けは必須です。時期早な離職を防止するためにも、若手を根気強く育成することは重要な命題となっています。

ICT化を行った事業全体認可保育園認定こども園小規模保育事業所家庭的保育事業所
保育日誌など、保育に関する計画・記録に関する機能1,525
31.2%
1,166
32.6%
241
38.1%
110
18.9%
8
8.4%
園児の登園及び降園の管理に関する機能1,489
30.4%
1,056
29.5%
302
47.8%
127
21.9%
4
4.2%
保護者との連絡に関する機能945
19.3%
678
18.9%
199
31.5%
64
11.0%
4
4.2%
その他207
4.2%
140
3.9%
36
5.7%
30
5.2%
1
1.1%
無回答2,571
52.6%
1,835
51.2%
239
37.8%
414
71.3%
83
87.4%
合計4,890
100%
3,582
100%
632
100%
581
100%
95
100%
厚生労働省 平成30年度子ども・子育て支援推進調査研究事業報告書
「私立保育所の運営実態等に関する調査」みずほ情報総研

 近年では、保育士の負担を軽減する業務支援システム充実してきました。国や自治体による助成金の活用も伴って、保護者等への連絡ツールや、自治体に合わせた提出フォームにカスタマイズした登園管理ソフトなど、何らかのシステムを導入している施設の方が多数派になりました。事務作業の効率化に加えて、お昼寝中の乳児の呼吸をアラートで知らせる補助装置なども登場し、人力を補うものとしてもICTの利活用は着々と浸透しています。また、ICT導入による効率化や補助効果は、子どもと触れ合う時間職員の自由な時間を捻出することにも繋がっています。

 一方その課題として、導入費用の問題と並んで多くの施設で聞かれることは、”職員がパソコンの操作に不慣れ” ということです。子どもの様子を細かい文字で枠いっぱいに書き上げてきた熱心な保育士を思うと、手書きの方が温かみを感じることができるという “紙信仰” もあながち否定はできませんが、やはり主流は電子化と考えるべきでしょう。
 そして電子化を問題とする際に、“直接子どもと接しない業務” に疎い若手と熟知しているベテランパソコン操作に慣れている若手と不慣れなベテラン、というように しばしば逆転現象が起こることがあります。

 その点 “紙信仰” を曲げないベテランも、電子化の業務においては “若手” です。「機械に頼っていたら、本来の能力が備わらない」と言わずに、”若手保育士” を楽しんでみてはどうでしょうか。その時の “先輩保育士” は、今年入職したばかりの新人職員かもしれませんね。私自身たとえ歳を重ねても、新しいことに取り組む際には、常に新人です。
 双方が学ぶべきことを確認できれば、園全体のチームワーク強化にも繋がるでしょう。キャリアのあるパート職員と職歴の浅い正規職員がギスギスしている、なんてことも少なくなるのではないでしょうか。この先、個別の能力が重要視される時代が訪れたとしても、子どもに携わる現場ではチームワークが最も重要であることには変わりがないと思います。

 労働環境整備の第一歩は、職員とその家族の生活を大切に思うことです。それを少しずつ形に変え、ゆくゆくは施設に通う子ども達の情緒を穏やかにさせ、最終的には施設運営の安定に繋がると考えています。
 次回は、人材確保の問題を取り上げたいと思います。