慢性的な保育士不足に対応した求人方法

保育所の朝3

<保育所等での働き方改革 Ⅲ>

 保育業界では、一年を通じて慢性的な保育士不足が叫ばれています。首都圏の一部を除いては待機児童も徐々に解消し、郊外に行けば保育施設の定員にも多少の余裕ができていると言う見方もあります。その一方で保育士の有効求人倍率の推移を見ると、驚くことに、令和2年4月の時点で1.0倍を下回っている都道府県は僅かに山口県のみです。全国平均は2.45倍、東京都に至っては3.41倍と、新年度が始まってもなお高い水準を保っており、子どもを迎える体制が十分ではないという現実が伺えます。

保育士の有効求人倍率の推移(令和2年4月)
https://www.mhlw.go.jp/content/000636780.pdf

定期採用の難しさ

 多くの保育施設では、毎年12月頃まで翌年3月末での退職意思確認する慣習がみられます。そのことを裏付けるように、保育士の有効求人倍率の推移を見ると毎年12月、1月が最も高くなる傾向にあります。
 12月に退職予定者数を把握した施設は、それに合わせて色々なところへ求人を出します。しかし、本来であれば真っ先に各大学の保育課や養成校にお願いをして、卒業予定者とのマッチングに取り組みたいところですが、その時点では “時すでに遅し” という状態になっていることがほとんどです。つまり、冬が訪れた頃には保育所等へ就職を希望する学生さんの大多数が内定済みなのです。
 では、保育所等への内定はいつ頃決まるのでしょうか。一般企業では、春から夏にかけて就職活動に勤しんで秋が訪れる頃に内定というスケジュールが典型的でしょうが、保育士の場合も同じ、もしくはそれよりも早いと言われています。待機児童が多い自治体を中心に新規開設が続いていることから、次年度4月開園予定の施設がいち早く新卒予定者を確保していることも一因だと思われます。
 一方で既存の保育施設では、一般企業のように業績や事業展開に合わせて新しい人材を雇うことができません。なぜならば、施設が予算組みをする人件費は、在籍する子どもの数に合わせて支払われる委託費でおおよそ賄われている為、年々処遇改善がなされてはいるものの、定員変更がない限り毎年ほぼ変わらないからです。その為、理想は退職者の数に合わせて新任職員を補充したいところですが、保育士の確保が一年中難しい以上、12月まで待てないのが現状です。その結果、在職員の退職意思の確認新卒学生の確保、その両者の時期的なズレを近づけるために、翌年3月末での退職申告期限がどんどん前倒しになっています。しかしながら、そもそも退職の意思を半年も前に告げなければならない状況は、在職員にとって過大な負担の生じる可能性があり、労働基準法上も問題があると思われます。

 それでは、仮に以下のような就業規則があった場合はどうでしょうか。

第XX条 
配置基準を欠く怖れがある為、職員が退職する場合は3ヶ月前までに施設長へ退職の申し出を行うこととする。なお、翌年3月末での退職を希望する者は前年の10月末までに申し出なければならない。
2   
前項の規定を過ぎた場合には、退職金の支払い予定額から1日につき平均賃金の1日分を控除するものとする。

 上記の内容のうち、1項については明記すること自体に問題はありません。ただし裁判になった際には、退職の申告をした職員がその後の拘束を余儀無くされることから、新しい保育士を補充する時間や引き継ぎの作業日程、そして子どもに対する精神的な影響などが総合的に判断され、三か月前もしくは五か月前という期間が妥当か否かが問題となります。その場合は、労働基準法というよりも民法上の公序良俗違反が絡むと思われます。職員の立場からすれば、募集が最も多い年明けを待って身の振り方を考えたいと思う気持ちも理解できます。それゆえ同規定を運用する際には、職員を黙示的に拘束するのではなく、日頃からのコミュニケーションを密にして、あくまでも要請までとする方が良いでしょう。
 一方で、2項についてはどうでしょうか。就業規則違反に対する罰則を課している訳ですが、そもそも労働基準法第16条で、労働契約の不履行について違約金を定めたり、損害賠償額を予定することは禁じられています
 なおかつ労働基準法第91条では、減給の制裁は1回の額が平均賃金の1日分の半額を超えてはいけないと定められています。つまり、仮に “期限を超えた退職の申し出は施設運営に過大な不利益をもたらすと判断され、規定を破った職員への制裁が認められた場合” であったとしても、超過1日につき平均賃金の1日分を控除することは違法になります。退職金は必ずしも払わなければならないものではありませんが、判例で「就業規則その他によって支給基準が明らかで、使用者に支給義務がある場合、退職金も賃金に当たる」とされたことからも、労働基準法による保護の対象となりえます。よって、2項については退職の足止めを迫る要素ともなり、記載そのものに問題が残ります
 職員の立場から話をすると、たとえ上記のような規定があったとしても退職届提出から原則二週間を経過した後に施設を去ることはできます。よほど事業主との確執がない限り、慣れ親しんだ子ども達や同僚に後足で砂をかけることは考えづらいのですが、少なからず退職代行で “そのままさようなら” というケースもどうやらあるようです。

 実際のところ、「在職員の生活」「保育士不足」「施設経営」「法律遵守」等、様々な問題を勘案して、多くの事業主が翌年3月末での退職予定者数を確認できないまま、卒業予定の学生に内定を出している現状があります。年度始めは慣らし保育もあり、新しい保護者が増えることを考えると、人手が足りないよりはむしろ多い方が良いとも言えます。加えて、突然退職願いを出してくる在職員がいたとしても原則拒否することはできません。ならば「学生さんにもまだ余裕のある夏頃に、いやいや春の実習期間中に打診しておこう」そんな風に、卒業予定者の内定時期が年々早まっています。

  • 翌年3月末での退職意思確認が前年10月〜12月頃
  • 施設全体の人件費が毎年ほぼ同じ
  • 新卒学生の内定時期が早まっている
  • 労働基準法上の諸規定を遵守する
  • 現状のまま来年度の体制を予測して学生に内定を出す

 まとめると、このような理由で保育士を定期採用することは非常に難しくなっています
 そんな厳しい状況に対し、国や地方自治体も何とかして資格者を増やそうと努力しています。保育士試験が年2回に増え、地方限定保育士資格が生まれ、保育施設で働く無資格者への資格取得補助など、質を落とさない程度での様々な取り組みの結果、資格者の絶対数が着実に増えていることは確かです。では、実際に保育士の資格者は全国にどれほどいるのでしょうか。

必要とされる保育士の数

<保育士登録者数>合計
平成31年4月1日78,0801,520,4761,598,556
平成30年4月1日73,5761,457,2961,530,872
平成29年4月1日68,9761,390,8821,459,858
平成28年4月1日63,8371,321,8401,385,677
平成27年4月1日59,0181,253,2231,312,241
平成26年4月1日54,4231,191,9291,246,352
※各都道府県から登録事務を委託されている登録事務処理センターより、厚生労働省が聞き取りの上作成。
※取消者累計とは、児童福祉法第18条の19第1項に基づき、都道府県が登録を取り消した数。

 上記は近年の保育士登録者数の推移データですが、年々増加傾向にあり、平成31年4月時点では実に160万人近い保育士資格者の存在が分かります。さらに今年も例年通りの増加があったと仮定すれば、令和2年4月時点では165万人以上の登録者がいると推測されます。
 そんな中、平成31年4月1日の保育所等利用定員は289万人という厚生労働省からの発表がありました。加えて、同時期に内閣府から示された認定こども園の在籍園児数は、1号認定316,459人、2号認定381,028人、3号認定233,798人の合計931,285人です。それらの数と共に、令和元年度版の “少子化社会対策白書” を参考にして独自に計算した表が以下の通りです。

年齢保育園定員<A>こども園利用者<B>必要とされる保育士
0歳児173400(6%)35069(3号15%)69490 {(A+B)÷3}
1歳児462400(16%)91182(3号39%)92264 {(A+B)÷6}
2歳児549100(19%)107547(3号46%)109442 {(A+B)÷6}
3歳児578000(20%)223196(1.2号32%)40060 {(A+B)÷20}
4歳児578000(20%)230171(1.2号33%)26940 {(A+B)÷30}
5歳児549100(19%)*244120(1.2号35%)26441 {(A+B)÷30}
合計2890000(100%)931285364637
*新規開設園の関係で5歳児が少ないものとみられる。

 内閣府 令和元年版 少子化社会対策白書
https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/whitepaper/measures/w-2019/r01pdfhonpen/pdf/s2-2-2.pdf

 認可保育園の配置基準で計算しているため、上記の “必要とされる保育士の数” はあくまでも最低人数でしかありません。しかし、その数に近づけば近づくほど、政府の掲げた “女性の就業率80%” なんていう目標はどんどん遠ざかり、それ以前に国の保育事業が破綻して日本経済に大打撃を与えるでしょう。実際は常勤スタッフのほか、短時間勤務職員で構成する補助者早番遅番スタッフ休業代用職員、それに施設長、主任・副主任役職者等が必要となってきます。また、小規模保育事業等の場合は一段厳しい配置基準が求められることや、認可外保育所等のデータに含まれない保育士の存在が考えられ、現状で必要とされる保育士は上記の数よりも約30%〜40%程多いと思われます。例えば、配置基準10名の施設では、数名の無資格者に加えて14名ほどの資格者でギリギリ保育ができるかどうか、という感じでしょう。

  • 「常勤スタッフ」…配置基準の資格者を確保
  • 「早番遅番スタッフ」…朝夕のお迎え時に子どもへの対応
  • 「休業代用スタッフ」…産休育休、介護休暇等の代替え要員
  • 「担任補助・加配」…子どもの増員対応や負担軽減
  • 「役職スタッフ」…施設長、主任など、施設運営管理

 それに対して厚生労働省は、必要な保育人材数を50万人と目標設定しました。つまり、保育士資格者全体のたった3割に対して保育所等に携わってくれるよう求めているわけです。裏を返せば、高いお金と時間をかけて取得した資格にも関わらず、全体の3割もそれを活かし切れていないことになります。その原因は一体何なのでしょうか?今のところ “日本の保育は破綻寸前です” とまでは言えないものの、現状は深刻なほど保育士が不足しています。
50万人(目標)ー37万人(最低人数)=13万人(必要確保)
この13万人に安定して資格を活かしてもらうこと、それが集中すべき問題となります。

年齢保育士登録者数(A)勤務保育士数(B)差分(A-B)割合
70歳~9,6467198,92792.5%
65 ~ 69歳21,9392,48219,45788.7%
60 ~ 64歳57,1344,16952,96592.7%
55 ~ 59歳87,93619,36868,56878.0%
50 ~ 54歳106,24431,63174,61370.2%
45 ~ 49歳101,87633,35668,52067.3%
40 ~ 44歳114,81136,31278,49968.4%
35 ~ 39歳145,24946,12999,12068.2%
30 ~ 34歳163,62361,386102,23762.5%
25 ~ 29歳220,54395,425125,11856.7%
~ 24歳157,00296,27860,72438.7%
合 計1,186,003427,255758,74864.0%
保育士登録者数:厚生労働省雇用均等・児童家庭局保育課調べ(平成25年4月時点)
勤務保育士数:平成26年賃金構造基本統計調査
年齢階級別については、平成25年社会福祉施設等調査の勤務保育士数との割合から推計

 上記は、保育士登録者のうち社会福祉施設等に勤務している保育士を年齢階級別に記した推計表です。平成25年度と少々古いデータではありますが、興味深いこともあり掲載しました。
 さて、保育士登録者数(A)ー勤務保育士(B)で示された差分とは何を意味するのでしょうか。実はここに保育士不足の大きな問題が隠されており、同時に解決策もまたここにあると考えています。

潜在保育士の存在

 保育施設での勤務経験が有る無しに関わらず、保育士資格を持ちながらも現在保育施設に就職していない人を、潜在保育士と呼んでいます。平成31年4月時点で160万人弱の資格者に対して、厚生労働省の保育従事者目標数が50万人であることから、そこには現場から遠ざかっている潜在保育士が延100万人以上存在することが分かります。

 下記のデータは、保育士が潜在とする理由再就職のために求めるものを年代別に分けた表です。

質問項目20代30代40代50代60代以上
就職しない理由求職しているが条件が合わない求職しているが条件が合わない就職に不安がある就職する必要性を感じない
就職に不安がある
就職する必要性を感じない
求職しているが条件が合わない
就職への不安要素:個人自身の健康体力
能力
家庭との両立家庭との両立家庭との両立
自身の健康体力
自身の健康体力
就職への不安要素:職場環境①賃金
②勤務時間
③人間関係
①勤務時間
②賃金
③雇用条件
①勤務時間
②人間関係
③雇用条件
①勤務時間
②人間関係
①勤務時間
②職場の年齢層
離職理由:個人賃金
結婚出産
家庭との両立
育児・介護
家庭との両立
育児・介護
家庭との両立
育児・介護
定年
離職理由:職場環境①人間関係
②理念方針への不満
①人間関係
②理念方針への不満
①人間関係
②雇用条件に不満
①人間関係
②本業以外の業務負担
①人間関係
②理念方針への不満
希望する勤務形態フルタイムパートパートパートパート
求めるサポート①研修
②就職情報
③個別相談の機会
①業界の情報
②就職情報
③個別相談の機会
①就職情報
②業界の情報
③研修
①就職情報
②業界の情報
③個別相談の機会
①研修
②就職情報
②業界の情報
有効な求人媒体①ハローワーク
②HP、張り紙チラシ
①ハローワーク
②求人広告
①求人広告
②ハローワーク
①求人広告
②ハローワーク
①ハローワーク
②求人広告
平成 23 年度厚生労働省委託事業 保育士再就職支援調査事業・保育園向け報告書
  • 保育施設に就職しない理由…『求人しているが条件に合う求人がない29.6%』『就職に不安がある26.4%』『就職する必要性を感じない24.5%』という回答でした。
     
  • 就職への不安要素:個人…最も多い『家庭との両立48.6%』という回答のうち、特に中間層の割合が大きく、それぞれ30代71.4%、40代60.0%となっています。加齢に伴う体力の衰えや介護を理由として『自身の健康・体力45.5%』が2番目に多くなっています。
  • 就業への不安要素:職場環境…全体では『勤務時間40.3%』『人間関係28.2%』『雇用条件27.3%』となっており、『保育以外の業務負担』『責任の重さ、事故への不安』という回答もあります。
  • 離職理由:個人…『家庭との両立が難しい25.6%』『近い将来結婚、出産などを控えている18.6%』『自身の健康・体力17.8%』という結果です。別に20代、30代においては『他の職業への興味』も比較的大きな割合を占めています。
  • 離職理由:職場環境…『人間関係』が全ての年代において1番多い。他に『雇用条件』『理念方針への不満』『本業以外の業務負担』『責任の重さ』が挙げられているが、これらに関しても同じくどの年代にも共通しています。また、30代以降は『若い職員が甘やかされていた』『家族経営がずさんだった』など、施設運営に言及する内容もありました。
  • 希望する勤務形態…20代に限っては半数がフルタイムを希望していますが、他の年代は圧倒的にパートタイムを希望しています。
    フルタイム希望 (20代50.0%、30代23.8%、40代12.9%、50代10.2%、60代0%)
    パートタイム希望(20代20.0%、30代66.7%、40代62.9%、50代66.1%、60代60.0%)
  • 求めるサポート…『就職の情報38.0%』『研修28.7%』『業界の情報26.4%』の他は、『家族との協力体制』『学童に通う自分の子どもの預け所』『介護ケア』等、自身の問題というよりも周りの環境のサポートを求める声が上がりました。
  • 有効な求人媒体…『求人広告56.4%』『ハローワーク43.5%』『HP張り紙チラシ40.0%』『人材派遣会社35.5%』がほとんどで、中には『自治体の就職説明会』『卒業校の紹介』『知人の紹介』という答えもありました。保育士以外の職業に就いている人、家事従事者、その他の人、共に似通った結果を示しました。

 現職の保育士に勤務内容と比較した給与についてアンケートを取ったところ、『妥当40.9%』『やや安い37.2%』『かなり安い15.0%』となり、”適切” と “適切でない” という答えで二分化しています。さらに “適切でない” と感じる理由を尋ねると、『職務の大変さ、責任に比して安い76.7%』が圧倒的に多く、以下『生計を維持するのに不足10.3%』『勤務時間が長いにもかかわらず安い5.0%』と続いています。その他、再就職組は『以前勤めていた公立施設の待遇とのギャップに驚いた』という答えもあり、保育士同士の繋がりやネットの情報から比較して、自分の給与が安いと感じるケースもあると思われます。
 一般的な職種と比べて給与が安いと言われている保育士ですが、以外にも『低賃金』を理由に離職した人は少数派です。しかし何故でしょうか、それが復帰を阻む要素にはなっているようです。一生懸命に働いている時はあまり意識しなかったものの、一旦現場から離れて俯瞰的に考えると、仕事の大変さや責任の重さに見合わない賃金だったと振り返る傾向にあるのでしょう。

 また、潜在保育士は結婚出産を契機に20代後半から増え始め、体力の衰えと共にうっすらとその割合が増えていく傾向にあります。
 再雇用した潜在保育士の勤務形態調査では『フルタイム契約社員』が最も多く、以下『パートタイム契約社員』『正職員』『アルバイト』と続いています。潜在保育士の多くが正職員以外を希望していることもあり、それに対応する結果となっています。その反面、保育園側がパートタイム職員を必要とする場合は「早番遅番スタッフ」が多いのに対し、潜在保育士が希望する勤務時間は9時から14時といった昼間であり、お互いの求める時間帯に乖離が生じていることで一定の就業を妨げています。

求人情報のあり方

求人方法(保育園実施率)20代30代40代50代60代70代以上
ハローワーク
(91.8%)
62.266.753.447.546.088.9
求人広告・新聞・求人誌等
(44.6%)
51.454.257.051.142.022.2
友人・知人の紹介
(43.8%)
13.514.612.410.012.00
HP・施設掲示板・チラシ
(40.8%)
60.839.638.228.120.033.3
人材派遣・紹介会社
(34.5%)
12.217.228.719.932.033.3
退職した職員への情報提供
(31.8%)/卒業校への求人
29.716.713.111.814.022.2
就職説明会
(30.0%)
9.515.619.532.130.033.3
行政からの斡旋
(11.2%)/自治体窓口
8.117.218.323.512.022.2
就職情報の望ましい受け取り方について(潜在保育士→保育園)

 上記は、保育園側が実施している求人方法に対して潜在保育士がどの媒体で就職情報を得ているか、という表になります。ほとんどの保育園がハローワークを利用している一方で、文字データでしか判断できないハローワークの求人方法に限界を感じている事業主も多いようです。加えて、効果のあった求人方法についてアンケートを取ると、最も満足度の高かった人材派遣・紹介会社でも53.3%しかなく、一様に50%前後の満足度が示されており、特筆すべき効果の期待できる求人方法が見つからない実情が伺えます。

 一方で、潜在保育士側に目を向けると、年代によって情報収集の媒体が異なっています。そのことからも分かるように、就職情報については一辺倒ではなく、どのような職員を求めているかによって掲載方法を変えることをお勧めいたします。若手の正職員を求めるならば、ネット広告ホームページ上の告知、又は内容的に信頼性の高いハローワークが有効でしょう。逆にベテランを求めるならば、ネット広告はあまり効果的とは言えず、現場関係者と直接話せる就職説明会などが良いのではないでしょうか。

ハローワークや求人サイト

 に登録する潜在保育士の場合には、復帰する意思がある程度見込める為、給与や待遇面をきっちりと明示してあげることが大切です。そして、「園の方針や環境が、私の求めている保育に合っていると思いました」などと志望動機を述べる応募者であっても、就職希望施設を選ぶ際の第一関門はこの給与と待遇です。しかし、子どもの健やかな成長を育む福祉的な仕事とは言え、このことは決して卑しいアプローチではありません。なぜならば、国家資格者として自分に見合った給与を検討することは大切な要素であり、社会的に不可欠な保育士という仕事の重要性を考えても当然に考慮されるべき点だと思います。
 ハローワークや求人サイトの場合、検索機能の関係上「給与・待遇」+「勤務地」でまずフルイにかけられ、次に「勤務形態」+「施設規模」、最後に「園の方針」+「福利厚生」という順番で候補を絞っていくのが一般的でしょう。それゆえ求人をする側としては、基本給のベースが上がるとしても処遇改善費を月々のサラリーに加算するなど、どうにかして周辺の施設よりも好条件を示す努力が必要となります
 ”園の取組や保育方針” に惚れ込んで施設を選んでくれるならば、詳細な待遇面を示す必要はありませんが、残念ながらそのようなことは稀です。求職者にとって給与や待遇面のチェックは、”資格者としてどれほどの評価をしてくれるのか” という内情を推し量る大事なファクターであり、採用側もその事実を十分に理解するべきだと思います。加えて、長く勤めてもらうために就業形態のバリエーションやキャリアアップの事例を分かりやすく説明できると良いと思われます。何よりも、保育士の生活の安定は子どもの心の安定に繋がると考えることが大切です。

求人広告やホームページ

 に関しては、チラリと情報収集のみをする人も多いと思われます。”なんとなく現状の仕事に就いているけど、資格を持っている関係で子どもに関わる現場が少し気になる” といった感じでしょうか。それらの人達に対しては、まず腰を上げる動作からしてもらうわけですから、
「責任のある仕事ですが、泣いたり笑ったり毎日が楽しく充実しています」
「保育士の個性を活かせる職場を目指し、職員どうしの人間関係の良さも子どもに大きな影響を与えると考えています」
 というような魅力的なアピールが必要でしょう。
 また、何らかの支障があって仕事につけないけど、気にはなっている人達に対しては、
「未就学の子どもがいる保育士も働いています」
「現場で役立つ研修制度も充実しています」
「働きやすい時間帯をご相談ください」
 などと、まず支障となっているものを取り除く為のメッせージが必要でしょう。

就職説明会

 は、各自治体や複数園が協力して “履歴書も何もいらないので気軽に遊びに来てくださいね” と肝入りで開催されていますが、データを見ると残念ながら20代30代にはそれほど需要は高くないようです。
 就職説明会に関する別のデータでは、保育園従事者は『土日30.8%、平日20.9%』の開催を希望している一方で、潜在保育士は『土日24.4%、平日44.5%』となっています。家事従事者に至っては、休日に優先順位の高い用事が組まれている関係で『土日22.9%、平日58.3%』と、圧倒的に平日を希望しており、託児サービスなどの要望も出ています。
 就職説明会に関しては、すぐに働ける人も、支障があって働けない人も訪れるでしょう。どちらの場合でも、情報検索だけをしている人に比べて就業意欲が高いと思われます。そして、保育園の就職情報が溢れているにもかかわらず、わざわざ就職説明会に来場する目的は主に二点あると考えています。
 一点目は、施設の雰囲気を知りたいということです。”働きたいけど、どんな人達が働いているんだろう?” そんな風に考えている層は、給与や待遇面と同じくらい人間関係を重要視している就職希望者だと言えます。特に、人間関係が原因で前職を退いた潜在保育士にとって、”職場の雰囲気に自分が溶け込めるかどうか” が重要な決め手となるため、会場内で現場スタッフと話す一言一句がそのまま就業への後押しとなるわけです。
 二点目は、個別の待遇を知りたいということです。”働きたいけど、家庭の事情があって働けない” そんな支障を抱えながら訪れた人に対しては、働きやすいように最善の配慮をするという説明に加えて、”私たちと一緒に頑張りましょう” と優しく背中を押してあげる対応が良いと思われます。

その他…

 緊急時に対応できる近隣のスタッフが欲しいならば、外壁の掲示板に載せることもあるだろうし、ある程度のパソコン能力を求めるならWEB面接も有効だと思います。このように掲載方法やタイミングを変えるだけで、求人と応募のズレがだいぶ解消されると思います。

 そんな中、別の調査では全体の70%以上の施設が保育士採用に困難を感じているという結果が出ています。応募者の絶対数が少ないことはもちろんですが、「必要な時間帯の問題」「契約社員、パート等雇用形態の問題」「即戦力不足」などに加え、「社会性がない、マニュアル人間、責任回避主義等」個人の資質に関わる問題も、子どもの命を預かる現場では考慮せざるを得ない部分です。当然ながら、配置基準を満たすためには、資格さえ持っていれば誰でもいいというわけではありません。
 採用する側もされる側も、お互いに不安要素を抱えながら関係がスタートします。その後は、密な会話を重ねながら必要な研修等を経て、両者の溝を埋めていく努力が何よりも必要になります。ちなみに筆者がお付き合いさせて頂いている保育園では、年度の途中で募集をする際に、多少不安要素が残る応募者であっても特定の在園児と合いそうだと感じれば採用するとのことでした。

現役保育士が希望する研修潜在保育士が希望する研修
保護者対応(58.1%)保育実技(49.8%)
保育実技(50.5%)救命救急(47.6%)
発達心理(41.4%)保護者対応(47.6%)

 上記は、保育士が希望する研修内容です。現役保育士の場合は保護者対応の希望が頭一つ抜けています。それに対し潜在保育士の場合は、より即効性のある研修が求められているのはもちろんのこと、個々の不安要素が異なるように、希望する内容は満遍なく一定程度高くなっています。近年では、保育士・保育所支援センターによる復職に向けての保育実技研修も行われています。

保育士の職場定着

 潜在保育士の7割近くは子育て中もしくは子育てが一段落した人達である一方で、就業中の保育士にも子どもがいないわけではありません。潜在保育士の方が未就学児の割合が若干高いものの、どちらも状況は似ていることからして、金銭的な問題と同時に、自分の子どもを最優先にしたいという意識の強さが家庭に留まらせる一要因になっているようです。
 そんな中、条件を整えれば就労できる層や、不安要素を取り除けば就労できる層半数を超えるという結果も出ています。優先対応や保育料軽減を実施している自治体もありますが、自分の子どもが待機児童となって保育園への復帰を阻んでいるケースも存在します。また、40代以降は親族の介護問題等も徐々に発生し、復帰したくとも家族に反対されることもあるようです。潜在保育士の多くが何らかの家庭の事情を抱えており、復職を促す為にはそれらを丁寧に排除することが必要になります。

 また、潜在保育士が復職したとしても、時間的な融通のきかないパートタイム職員として勤務シフトに絡むと、逆に正職員の負担が増してしまう懸念も生じます。同時に子どもと信頼関係を築く時間や、保護者とのコミュニケーション不足という問題も残ります。しかしながら、一般企業や様々な施設でのキャリアを有する潜在保育士も多く、資格者としての専門性と共に自身の子育て経験も加わり、施設運営上の重要な人材と成り得ることは間違いありません
 制度上も、潜在保育士の復帰を後押ししています。以前は、10年キャリアのある潜在保育士が復帰しても、新人と同じ給与でのスタートということが多かったようです。その点でも、子どもに対する責任の重さや職員間の人間関係を考えると二の足を踏んでしまい、むしろ保育士というイメージがプラスになる一般企業に再就職、という選択がなされても致し方ない状態でした。しかし近年では処遇改善加算費が導入され、保育園はもちろんのこと、幼稚園、小学校、その他社会福祉施設での経験年数が給与に反映されるようになりました。つまり、新入職員であっても、就業する施設において相対的にキャリアが長ければそれなりの給与がもらえる仕組みになっています。
 そして職員が確保できたら、次は効果的な職場定着の施策を図ることが必要になります。その一環として定期昇給制度職業能力評価基準を設けたり、短時間正社員制度を導入する場合には、同時に助成金の申請もお勧めいたします。

人材確保等支援助成金(介護・保育労働者雇用管理制度助成コース)
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000545300.pdf

 確かに、筆者が保育業界に携わり始めた20年前は、保育士として入職した際に「結婚する場合は退職してもらいます」と施設長からあからさまに告げられることもあったようです。そこには “自分の子どもを育てながら働けるほど楽な職場ではない” という建前と、”ちょうどサラリーが上がってきた時点で人材の入替えができる” という経営上の理由もあったと聞いています。
 しかしながら、”きつい” “帰れない” “給料が安い”、新3Kなんて揶揄された時代はもう昔であり、今は社会全体が保育士という仕事の地位向上を望んでいます。日本の未来を支えるには子どもが必要であり、日本の現在を支えるには女性の活躍が欠かせません。そして、女性が活躍してきたという観点では他の職種よりも先を行っている保育士は女性がのびのびと働ける模範ともなるべき仕事だと筆者は考えています。
 そんなことで次回は、保育現場での労働環境改善を阻むハラスメント問題について考えていきたいと思います。