コロナ禍における保育所等の勤務状況

保育所の朝1

<保育所等での働き方改革 Ⅰ>

 緊急事態宣言の下、自治体の要請を受けた休業であっても「事業主の都合による」という判断が覆されることはありませんでした。それゆえ、余儀なく休業を決断した事業主であっても、従業員に対して休業手当を支払わなければなりませんでした。その一方、コロナ禍で従業員に通常勤務を命じることは、事業主の安全管理配慮義務違反が問われる可能性があります。シャッターを開ければ非難を浴び、閉めれば真綿のごとく経営が圧迫される中、日本社会全体が半ば強制的に働き方の見直しを迫られました。
 接客業などの従事者は、多くの場合休業手当を受け取ることとなった一方で、決められたオフィスに出社せずとも仕事に従事するリモートワークを試してみた組織では、様々な発見があったと思います。通勤時間のストレスが無くなり、仕事への集中ができて契約件数を急速に伸ばした営業マン。逆に、人と人との対面接触がどんなに大切だったかを再認識した個人事業主。これを機に、チームから個人へと成果主義の評価基準を強めた中小企業。社外に持ち出す重要秘密や個人情報などに対するセキュリテイー問題も露呈し、順調にIT化を進めてきたはずの組織であっても、思わぬ障害に直面したケースがあったように思います。

保育所等でのテレワークは可能ですか?

 そんな中、日々子ども達と接する保育園やこども園の現場では、果たしてテレワークを導入することができるのでしょうか。答えはYESです。
保育ロボット 本来、子ども達と接しなければ保育士という仕事は成り立たない、そんな声が聞こえてきます。確かにその通りです。そのため、自宅にいる保育士さんが施設に設置されたAIロボットを遠隔操作し、登園してきた子ども達と楽しく過ごすことができるよう最新技術を導入しましょう。…という、手塚治虫が描くような近未来的保育を唱えている訳ではありません。
「子どもと遊んでいるだけで、お金がもらえるなんていいよね。」と、保育の仕事を誤解されている方達にとっては、なかなか想像しにくいと思いますが、事実、保育士業務の30%程度は子どもと接していない場面での仕事になります。しかも、その部分は常態的な残業を生み出す原因となっていることが少なくありません。
 それと同時に、保育士は「先生」と言われる限り自己研鑽をしなければなりません。近年、保育士の賃金ベースを上げるために処遇改善加算が導入され、それに伴う研修が課されましたが、職歴が浅い職員はもちろんのこと、主任や園長であっても知識や制度、技術の上書き更新は必須です。職員に持続的な能力の向上が求められる以上、労働基準法の下では、組織が指示した研修等は業務の一環であり、それに要する時間に対しても正当な賃金を支払う義務があります。
 つまるところ、いつも目にする優しい保育士さんの姿は “月の表側” であり、子どもと接していないところでの地味な仕事や、保育技術・知識を深める為の努力は “月の裏側” と言えます。

 そもそもテレワークとは、何も全部の業務を自宅で行うとは限りません。全体の仕事に対して、どの部分は自宅でできるのか、またはできないのか、そのすみ分けが必要になります。もちろんセキュリティー管理や導入費用の問題は常にありますが、多くの事務作業や打合せ・研修等は遠隔業務として賄えると考えます。その点から、保育施設も例外ではなく、テレワークが可能です。”月の表側” が難しくとも “月の裏側” だけならできるでしょ、ということです。
 実際のところ、自治体からの登園自粛要請や臨時休園により、特定の家庭以外は原則子どもを受け入れないこととなり、必要な職員の数が減りました。それに伴い、感染拡大防止の観点からも職員を何グループかに分けて輪番制を取り、園に出勤しない職員の多くは、自分に与えられた仕事を在宅勤務としてこなしていました。

保育所等で「雇用調整助成金」申請?

 コロナ禍において、認可保育園やこども園に従事する職員の多くは、休業ではなく在宅勤務という形を取っていました。
 事業主の都合で職員を休業させた場合、労働基準法の決まりだけからすると、平均賃金の60%を休業手当として支払えば問題はなく、残りの部分は自由に使うことができます。しかしながら、保育士の給与は行政から支給させる委託費から支払われているため、その性質上100%支給されることが望ましいとされています。つまり、行政から各施設へ費用がおりているにもかかわらず、施設側の都合で浮いた人件費を他に流用することは適切ではないということです。もっとも、保育士不足や人材育成の問題を考慮しても、平均賃金の60%でおさめるような対応はあまり賢明ではないと思われます。

 ところで、職員を休業させた場合、手続きが複雑だとされている「雇用調整助成金」は申請できるのでしょうか?答えは、原則NOです。
 申請過程において、前年同月比などでの減益を証明することが難しいという以前に、給与が公費で賄われている性質上そもそも対象外となります。ただし、地域子ども・子育て支援事業、地方単独事業など運営費以外で実施している事業に関しては対象になる可能性があります。
 まとめると、認可保育施設が事業主都合で職員を休業させた場合には、原則100%の手当を助成金の利用なしに支払うことが求められます。様々な不安要素が広がる中、職員を身体的精神的に休ませることも賢い選択肢の一つですが、休ませたところで同じ額を支払うのであれば、在宅勤務として時間を有効に使った方がベターと考えた施設の方が多かったように思います。

保育所等での在宅勤務

 では、在宅勤務を命じられた職員は自宅等でどんなことをしていたのでしょうか?以前は、お便り帳や園児の記録を自宅まで持ち帰って、コーヒーを飲みながらゆっくり仕上げていた保育士さんも多かったのではないでしょうか。しかしながら近年は、個人情報を園外に持ち出すことを禁止する施設がほとんどであり、自宅での仕事はもっぱら壁面装飾や行事の準備といったところでしょう。その時間に対する賃金の支払いについては、また別の機会にお話させていただきます。
 個人情報を持ち出せない中、特に指示された仕事も無く休業に近い形での在宅勤務を命じられた保育士さんも多かったのではないでしょうか。3月末まで新年度の準備に追われ、4月に入って間も無く緊急事態宣言で自粛要請になったわけですから、致し方ないともいえます。
 4月といえば、保育所等は例外なく “慣らし保育” の時期です。それは文字どうり、子どもが新しい環境や関わる人達に慣れるための期間であり、保護者の協力のもと保育時間を縮めたりすることで子どもを少しずつ保育所生活に適応させていきます。今後受け入れが通常に戻っても、各施設は、まずこの対応から始めることになります。在宅勤務で指示された仕事は無くとも、新しいクラスの子ども達と過ごす日々に向けて準備することは山ほどあります。

 そんな中、在宅勤務ではなく在宅研修という形を取った施設もありました。

  • 園長の指示した保育図書を読んでレポート
  • 乳児・幼児別、園全体で取り組みたいことを提案
  • 壁面装飾、乳児の手作りおもちゃ、幼児の絵カードなど作成
  • その他、自分の得意分野、興味のある分野を列挙

 上記のような課題を与えた園長先生曰く、「思いがけず、職員の特徴や能力を改めて知る機会になった」とのことでした。また、一年中走り続けている職員にとっても少しだけ速度が緩まり、子どもに関わる仕事の奥深さや自分の可能性を推し量る時間になったのではないでしょうか。不意に与えられた時間を、目的を持って有意義に消化することで、再開後の活動に大きな変化がもたらされると思います。

休業のケース

 一方で、あえて職員を休業させるケースもありました。自分の子どもが通う学校や幼稚園、保育施設等が休み又は自粛となり、自宅で面倒をみる必要性の生じた職員が対象になります。その場合は委託費と支給趣旨が異なることから、年次有給休暇の他に特別の休暇を付与することで「小学校休業等対応助成金」を活用することができます。1日あたりの上限額を超えなければ、該当職員を費用負担なしで休ませることが可能となります。
 また認可外保育所の場合は、行政からの委託費で運営している認可保育園とは違い、原則保護者からの月極め料金で経営をしているため、自粛要請に応じた家庭に対してお金を払い戻すなどの対応により前年同月比との減益を証明できれば「雇用調整助成金」が申請できます。そのため、助成金を頼りに職員を休業させた施設も見られました。

保育所等の重要な役割

 いかがだったでしょうか?100年に一度の有事においても、保育園やこども園は規模を縮小しつつも動きを止めることはありませんでした。それは同時に、保育施設で勤務されている方々は、大きな社会インフラを支える重要な役割を担っていることの証明でもあります。
 コロナ禍における保育園やこども園の勤務状況について、ざっくりと話してきましたが、保育施設での働き方改革については、以下の予定で次回以降さらに踏み込んでお話させていただきます。

  1. 労働環境整備
  2. 保育士不足問題
  3. ハラスメント
  4. 両立支援
  5. 労務管理
  6. 新しい働き方