ウンジャラゲの朝

志村けんの木
〜 突然の訃報 〜

 バカ殿様がお亡くなりになった。

 前日深夜まで作業をしていた為、その日は少し遅い起床となった。頭の中をチューニングしながらベッドの上で iphone を開けると、「志村けんさん死去」の一報が・・・。
 慌ててテレビをつけると、すでにその話題で持ちきりになっていた。数日前から予断を許さない状況が続いていることは知っていたけれども、何が何だか、まだ夢の中から抜け出せない自分を疑った。
 その後は、他のチャンネルに変えても変えても、神妙な面持ちの出演者達が、志村けんさんの思い出や功績を語り続けていた。それでもやはり、全く実感が湧かなかった。

 そう、私はこんなシチュエーションのコントを散々見てきた。「8時だよ全員集合」「ドリフ大爆笑」「カトちゃんケンちゃんごきげんテレビ」「だいじょうぶだぁ」・・・。シリアスな場面が10分間続いたあと、じわじわと空間が歪んできて、最後の5秒で笑わせる。とんでもなく長いフリすらも、全然慣れている。”一体どの番組でオチを付けるのか” そんな思いで、私は30秒おきにチャンネルをザッピングした。
 突然の訃報に、悲しい顔を浮かべる出演者の後ろから、ピンク色のパジャマを着たおじさんがそっと現れて、端っこに座っている女性にいたずらをする。
「キャァー、このおじさん変なんです!」
「そうです、私が変なおじさんです。」

 早く出てこい!早く、出てこい!

 志村けんさんは、私が物心のついた頃から常にそばにいた。そして、幸せな時も、悲しい時も、なんでもない時も、いつ何時も私を笑わせてくれた。あえて言うならば、会うと必ず元気をくれる親戚のおじさんのような存在だった。
 しばらく経って棚の奥からDVDを出し、その姿を見返すと、やっぱり腹の底から笑えた。そのうちに、ほころんだ顔の両目尻から、薄い涙がツーとこぼれた。


〜 これからのアイーン 〜

 追悼番組などでは、ザ・ドリフターズのメンバーや、親交のあった方々からのコメントが次々に紹介され、一様に胸を打った。生前の意志が浮き出るように、そこには、悲しみを打ち消すほどの大きな笑いが画面一杯に溢れていた。
 そんな中、深夜のラジオ番組で語られた、岡村隆史さんの話がとても心に響いた。

「志村さんのネタをパクりますけど、恥ずかしいとは全く思わない。だって、僕の中に染みついているものだから。僕のやる顔や動きは、70% “志村けん” なんですよ。」

2020年4月2日岡村隆史のオールナイトニッポンより

 1970年生まれの彼と私は同期生だ。それもあってか、彼の話は、まるでドリフ好きの友人が喋っているようで、コント以外における志村けんさんの一面も含め、終始共感できた。
 
 滑ったとしても、バッターボックスに立て!という話。
 死に役ができる役者、わざと捨てるコントの話。
 ”変なおじさん” “バカ殿様” 最強説。
 ヒゲダンスのヒゲが欲しくて、駄菓子屋のおばちゃんがいない間にガチャガチャを細工した話。

 
 ところどころで “シムラ” “志村けん” と呼ぶ瞬間は、その当時の岡村隆史少年にタイムスリップしていた。

 志村けんさんやザ・ドリフターズのコントに、たくさんのパターンがあることは、ご存知の通り。「バカ殿様」「変なおじさん」「ヒゲダンス」「ひとみばあさん」…そんな有名どころ以外にも個人的に大好きだったものは、「松の廊下」「ケンちゃん牛乳」「逆さ吊りの飛行船」「鏡合わせ」「芸者コント」「定食屋コント」など…枚挙にいとまがないほど多く、どれもこれも思い出すだけで口角が上がってしまう。しかも、まるで落語の演目のように、基本的な展開が分かっていても、毎回毎回微妙なズレを伴って腹がよじれるほど面白かった。

「これからも僕は、”アイーン” て言い続けますし、事あるごとに ”ダッフンダ” と言いますし、”なんだちみわ” って言います。もう、自分に刻まれているものだから。多分、志村さんも『いいよ』って言ってくれると思います。」

2020年4月2日岡村隆史のオールナイトニッポンより

 芸人でも業界人でもない私は、単なるザ・ドリフターズの一ファンに過ぎませんが、もはや、それらのコントは日本芸能の財産と言っても過言ではないと思っています。”アイーン” ”ダッフンダ” ”なんだちみわ”・・私の中に植え付けられた、笑いのスイッチのような言葉たち。できれば、そんな言葉たちを事あるごとに聞いて、まだまだ腹の底から笑いたいと思います。
 毎週月曜日の夜、どのタイミングで “ウンジャラゲ” のフォーメーションに変わるのかが楽しみだった。のちにその曲が、クレイジーキャッツのカバーだと分かり、志村けんさんが敬っている先輩コメディアンの存在を知ることとなった。同じように、志村けんさんやザ・ドリフターズのコントが、これから先の世代にも継承されたらいいですね。


〜「いま、あたしのこと誰か呼んだかい?」〜

「あなたは神様ですか?」
「ぁに?」
「カミサマですか!?」
「ぁんだって?」
「あ、な、た、はカミサマ、で、す、か!?」
「とんでもねぇ、あたしゃカミサマだよ!」
 近い将来、小さな神社を訪れた際に、そんなやり取りができることを願ってやみません。

 志村けんさん、本当に、ありがとうございました。
 心からご冥福をお祈りいたします。

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優香さん誕生日

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公式インスタグラムより

「まだまだね、色々喋りたいことはありますけれど、『長いよ』と志村さんに言われている気がします。本当に、色々勉強させていただきました。えー、なんなら、もー、オッパイの触り方も教えてもらったかもわかりません。本当に尊敬もしてましたし、これからも、志村けんさんを追いかけながら頑張っていきたいと思います。」

2020年4月2日岡村隆史のオールナイトニッポンより

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